
Dominique Belanger, Ph.D.Assistant STEMM CoordinatorResearch and Graduate Studies
Global Coordinatorが行く!アメリカ留学紀
「博士課程の学生はアカデミア以外のキャリアパスやロールモデルをほとんど知らない」。これは、今年5 月に科学技術政策研究所(NISTEP)が発表した日本の理学系博士課程修了者のキャリアパスの調査※で指摘された事実だ。私はこの記事を通じて、アカデミア以外のキャリアパスにも拡がる博士の姿をみなさまへお伝えしようと思う。私がアメリカの母校を訪ねて出逢った理系博士は、デイトン特有の “大学第一世代”問題を解消するために、博士課程で得た経験と知識を活かして大学の学生支援コーディネーターとして活躍していた。
州立大学が担う社会的責任
デイトンは、アメリカ・オハイオ州中南部にある人口67万人の中都市だ。デイトン郊外にある私の母校、ライト州立大学の入試制度は OpenEnrollment 制度といい、高校卒業証書、またはそれと同等の資格を持っていれば成績に関係なく、誰でも入学できるという制度である。
その制度の結果、ライト州立大学には、大学第一世代と呼ばれる学生が多く通っている。大学第一世代とは、家族の中で初めて大学へ進学をした学生のことを指す。ライト州立大学のウェブサイトによれば、同大学の大学第一世代の割合は全学の44%、約8360名(2009年度)にものぼる。しかし、最近の研究では大学第一世代は落ちこぼれる割合が高いことが指摘され、このことが問題視されている。デイトンも、アメリカ全国の中都市と同じように、市民の貧富の差という問題を抱えている。市民全体の貧富の差を小さくするためにも、市民の教育年数を高校卒から大学、大学院卒と伸ばしていくことが、経済発展を後押しするために重要だ。地域活性や貧困の解消のためにも、デイトン地域でライト州立大学が担う社会的責任は大きい。
大学第一世代の学生のニーズに対応する
大学第一世代を多く抱えたライト州立大学では、STEMM(Science,Technology, Engineering, Mathand Medicine)の分野を強化しようという動きがある。その中で学部生のときから研究の面白さを知ってもらうためのプログラム開発と運営を担当するDominique Belangerさん(Ph.D.)にお話を伺った。「第一世代が多く、勉強することが将来のためになるという認識を学生が持ちにくいという問題があります。低学歴の両親のもとでは、親も教育の大切さを認識しないこともある。大学教育を受ける率と、親の年収の相関関係は否めないところがあります。私はこの大学のSTEMM Coordinatorとして、自信に欠け、能力を発揮できていない学生たちを育てていくためのプログラムを開発しています」。
今年の夏に行われる10週間の特別夏季プログラムでは、学生がセミナーと研究体験をする。学生は日当を受け取りながら、プログラムの前半で5週間のキャリア選択、大学院選択についてのセミナーを受け、後半は大学教員の指導のもと各自の研究に携わる。そしてプログラムの最後に研究結果を発表する。夏の間、ライト州立大学では通常授業が行われているが、授業をとらずにアルバイトで小遣いを稼ぐ学生はたくさんいる。同じ期間にプログラムを開催することで、ハンバーガーを売ってお金を稼ぐのではなくて、研究活動に携わってもらおう、という狙いがある。
私がDominiqueさんを訪ねた日が、ちょうどプログラムの申し込み締切だった。ファイルに綴られた願書の束を私に見せながら、平均的な成績さえとっていれば申請ができると教えてくれた。「高成績の学生は、こちらの後押しがなくても、インターンシップや奨学金をもらうチャンスがたくさん巡ってくる。平均的な成績の学生たちは、能力はあるけれども、残念ながら本領を発揮しないで終わってしまう人が多いのです」。後押しが必要な学生層を受け入れるという目的は、このプログラムの申し込み条件の内容にも現れていた。
研究にかける情熱をもって、学生にきっかけを与えたい
Dominiqueさんは、博士号を有機化学分野で取得した。コーディネータとしてこの仕事に関わる中で、自分の大学院での経験をセミナーで話したり、研究費申請書の書き方を学生に教えたり、学生の研究計画にアドバイスをしたりもしている。そんな彼女も、学部生の頃、夏休みを利用してスウェーデンにある企業の研究所でインターンとして働いた経験がある。そのとき研究アシスタントとして働いたことがきっかけで、研究職に興味が湧いた。その後、大学に戻り研究アシスタントとしてラボに所属し、研究を続けた。そんな自分自身の経験と、研究が大好きな想いから、その楽しさをたくさんの学生に知ってほしいと願う。
「もちろん、誰も彼もみんなに研究者になってほしいとは思いません。でも、能力はあるけれども、あと一押しが必要な学生たちの助けになりたい。研究を実際に体験することで、興味があるかないか、向いているかいないか考えるきっかけにしてほしい。このプログラムの後に、一緒に研究をした教員と研究を続けてくれたら、本当に嬉しいですね」。
精力的に今の仕事に取り組んでいるDominiqueさんの話を聞くと、こういった研究支援、キャリア教育、学生支援のようなポジションでは研究の面白さを伝えられる理系博士ならではの活躍の仕方があるとわかる。博士のキャリアパスは決して教授や研究員だけに閉じたものではない。彼女が取り組む大学第一世代支援は貧困の差や犯罪抑制などの社会問題解消、また地域活性、科学技術の発展にもつながることが期待される。デイトンの明るい未来を期待しつつ、こんなふうに日本の理系博士人材のキャリアパスがもっと多様になってほしいと願いながら帰路へついた。
※ 博士人材の将来像を考える―理学系博士課程修了者のキャリアパス。www.nistep.go.jp

母校を訪ねてきました!リバネスの紹介してきました!実は、ライト州立大学は私の母校です。約1 年ぶりに研究を共にしたクラスメイトや、恩師の方々に会うことができました。そして、学内でリバネスを紹介するプレゼンもしてきました。とっても楽しかったです!
前田里美プロフィール:高校卒業後心理学を勉強するためにアメリカに渡米。学士をミズーリ州のTruman State University で取得、修士、博士をオハイオ州のWright State University で取得。10 年間の渡米を経て帰国。現在は株式会社リバネス人材開発事業部でグローバルコーディネーターを務める。

