
地方の私立大学では、授業料の高さから進学希望者の多くが他大学に流れがちだ。どのように研究科の魅力をつくり、発信していくかがカギとなる。「よそにない魅力をつくるのが研究科長としての使命」と話すのは、新たに理工学研究科長に就任した久保田弘敏教授の言葉からは、強い意志が感じられる。
大学院で、知識や価値観をシャッフルする
帝京大学理工学部は、機械・精密システム工学科、航空宇宙工学科、ヒューマン情報システム学科、バイオサイエンス学科、そして情報科学科通信教育課程の5つの学科を有する。しかし、大学院の理工学研究科は、総合工学専攻と通信教育課程である情報科学専攻の2専攻のみ。「学部までは『アナリシス(分析)』で、専門性を掘り下げることをしますが、大学院では『シンセシス(統合)』が必要なんです」。1つの専門分野に様々な研究分野を統合し、異なる分野や文化の人々との交流を通じて、研究の発展を図る狙いがある。研究科にそろう研究内容は広範囲にわたり、それらを組み合わせた研究やプロジェクトも進められている。
学生とともに超小型人工衛星「TeikyoSat」の開発を行っている久保田さん自身、バイオ系の研究者との交流の中で、生物を搭載する新たな小型人工衛星の開発を思いついた。「他の分野の知識を入れると、また新しいものができる。それで、ロケットが飛んだり衛星が作られたり、技術の進歩があるのです。大学院は、これまで自分が持っていなかったものを掴みに行く場だと思うんです」。
新しいものは、学内だけでなく地域との交流でも得ることができる。たとえば、キャンパス周辺にある高い技術を持った企業に、研究の目的に合った衛星のボディや電子部品の製作などを担ってもらえれば、その人工衛星の開発はより進歩するだろう。「研究を産業に結びつけることを考えるなら、地方の方がやりやすい。それに、研究で良い結果が出ると、地域の人はすごく褒めてくれる。それが学生のモチベーションにもなるでしょう」。その他の分野の研究においても、地元のコンソーシアム事業で超音波振動加工に関する機械系の研究開発の一端を担っている例もあり、産業の活性化や地元への就職にもつながる。地域でも学生の活躍の場は広がりつつあるのだ。
国際化で狙う技術交流
さらに久保田さんは帝京大学の建学の精神である「実学・国際性・開放性」にのっとり、海外との連携を強くしたいと考えている。
南フランスのトゥールーズには、航空機メーカーのエアバス社をはじめとする企業、国立研究所や大学が加入している航空宇宙系の産業クラスターがある。一昨年、そのクラスターに招かれ、材料・部品メーカーなど大手企業とともにアカデミア代表として視察に出向いた。そこで久保田さんが考えたのは、航空宇宙研究に強く、このクラスターにも加入しているいくつかの大学との連携。帝京と同じく地域の企業との連携を図っているこれらの大学との研究交流や交換留学等の可能性を模索している。一流の企業や大学との交流は、研究を推進するだけでなく、きっと学生の価値観さえも変えてくれるに違いない。地域連携と国際化の両方を実現することにより、他の大学にはない強みになることを期待している。
何かに集中する経験を
久保田さんが帝京大学に赴任して1年目のこと。卒研生として配属された学生の1人に、隕石が大好きでそれに関わる研究をしたいという学生がいた。そこで、隕石が地球に落下してくるまでにどのくらいの大きさになるかを計算するというテーマで研究を始めたが、すっかりその虜になり「こんなに卒業研究が面白いものだと思わなかった」と言うようになったという。その後、帝京大学大学院の修士課程に進学して研究を続けると同時に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)にも技術研修生として通っている。さらに今後は博士課程に進むことも考えているそうだ。彼はAO入試で入学した学生だった。受験勉強など集中して何かをやった経験がないため、卒業研究が刺激になって研究に目覚めたのだろう。このような関連研究機関や企業で意欲的に研修・共同研究が行なえる枠組み作りにも努力したいと久保田さんは考えている。
地域に根差した活動をしつつ、視野を大きく世界に広げることもできる帝京大学大学院理工学研究科。自分にない知識や価値観を取りこみながら、新たな価値を創り出す人材の輩出を目指している。

