
古くは鉄鋼、石炭などの素材産業やエネルギー産業、近年ではIT産業や自動車産業の拠点として、多くのメーカー企業が集積する九州地方。九州から日本全国、そして世界に活躍の場を広げる研究開発・ビジネスリーダーへと産学共同で博士人材を育成する取り組みが九州大学のITP(Innovation Training Program)だ。
何のための研究か
「夢と志を持とう」。九州大学が目指すのは、世のため・人のためといった大きな理念を持った博士の育成。多くの時間を研究室で過ごす博士人材は、自らの研究テーマの知見を深める一方で、社会の中で自分がやりたいこと、やるべきことを考える機会は少ない。そこでプログラムのスタートでは、「志教育」と題し、幕末・明治時代に数多くの優秀な人材を輩出した吉田松陰が塾を開いた山口・萩に足を運び、自らの志を考えることの重要性を学び、人間観を形成する機会を提供する。「何のための研究か、自分は何のために生きていくのか」。これまで考えたこともなかった、自分自身と向き合う時間を過ごす。参加した学生の態度が変わり、研究室の指導教員からお礼を言われたこともあるという。
17日間に及ぶ合宿形式の座学講座
研究活動と並行して人材育成を行うためには、効率的・効果的なプログラムが不可欠だ。そこで同プログラムでは年3回、約17日にわたる合宿形式で座学講座が開催される。各種企業の役員クラスを講師に招いて行う1日6時間の講義、ビールを飲みながら交わす3時間のディスカッションを行い、午前9時から夜の10時までみっちりと学ぶ。実際に企業で研究開発から事業化まで実践してきた講師陣が、研究テーマの決め方からマーケティングのやり方、売り込み方まで実例をもとに話す。企業における新製品や新技術を世に出す方法、働き方を知ることが博士人材の視野を広げ、技術者としての喜びを得ることができるのだ。濃密な時間が高い志と研究開発能力を備え、国際性を持った博士人材を育て上げる。参加者は目を輝かせ、楽しみながら座学に参加している。
高度産業人材への道
今年度からはいよいよ本格的にプログラムがスタートする。すでに30名の応募の中から8名の博士人材が養成対象者として採用された。彼らは、志教育・座学講座に加え、企業との共同研究や企業研修を実践する。研究室の指導教員と企業が行う共同研究にスタッフとして加わり、企業の実務指導者とともに研究計画を立て、研究を進めていく。それとともに、企業と指導教員をつなぐコーディネーターとしての役割を担う中で、リーダーシップとチームワークを学んでいく形を取るという。
すでに博士号取得者が産業界でのリーダーとして活躍するモデルが構築されているドイツでは、多くの企業で社長や役員を博士号取得者が担い、高い見識とビジネス感覚で国の経済を牽引している。先進のモデルに習い、「志」を持った高度産業人材を九州から輩出すべく同大学の挑戦が始まった。

