早稲田大学の政治学研究科に設置されている、科学技術ジャーナリスト養成プログラム(通称MAJESTy)。4年経った現在、すでに25人の卒業生が新聞・出版・放送業界や教育現場などで活躍している。ここの特徴は、「科学」と「ジャーナリズム」について、専門知識と実践的スキルを身につけられること。実際にどんなことを学べるのか、MAJESTy講師の中村理さんと田中幹人さんに話を聞いた。
理系出身の弱みと強み
「科学の研究者にとって、社会の中で自分たちがどのように位置づけられるのかを知るチャンスは、意外と少ない」と、中村さんは言う。大学の研究室に所属すると、周りは研究者だらけ。社会と研究の関わりを考えない学生は多い。そこで、中村さんの自然科学概論1(物理基礎)では、まず科学の方法論から入る。そして、科学の特徴と限界を認識させた上で、それが実際にはどう伝えられ、どう改善できるのかを議論するという。取り上げるのは原子力や素粒子など、物理に関する様々な社会的トピックス。ここでは、理系出身者の持つ専門知識と科学的な考え方が大きな武器となる。
一方、田中さんが担当する自然科学概論2(生命科学研究方法論)では、英語の学術論文から記事を書く訓練を通してこのことを学ぶ。統計データや考察の扱いひとつで、まったく異なる解釈が出るものだ。例えば「ある遺伝子の型と、個人が持つ対人関係傾向には相関があるようだ」という主旨の論文は、「離婚遺伝子発見」という、優性遺伝学と見なされかねない文脈で報道されていた。難解な内容を噛み砕いて伝えるだけでなく、社会的な意義やリスクを評価するまでが科学ジャーナリストの仕事。「科学者がとる行動の、文化的・思想的背景を理解できるのは、理系出身者の有利な点。そこは文系という枠に自らを押し込めている人がどんなに頑張っても近づけない領域だろう」と、田中さんは話す。
21世紀の科学ジャーナリスト
インターネットの台頭によって、誰もが気軽に情報発信、自己表現できるようになった21世紀。書く・話す・撮るだけでなく、それらを自ら編集できる「個」として強い人材が求められる。それに対応すべく、来年度以降は政治学研究科ジャーナリズムコース(※)内に継続・拡充され、より学術専門性の高い講義とウェブ・映像を使った情報発信の充実が図られる。「修士の2年間という時間は短い。『自分探し』ではなく、科学技術と社会の関係性に興味や問題意識を持った人が一番成長する場所になる」と、2人は口を揃える。
敷居が高いと倦厭されがちな「ジャーナリスト」だが、全ての職業と共通するのは客観的な視点とコミュニケーション能力。マスメディアだけではなく、一般企業でもその能力は充分活かすことができる。科学技術が私たちの生活や行動様式に入り込んでいるのと同じように、ここを巣立つ学生たちには、科学ジャーナリズムの精神を持って、社会の隅々へ飛び込んでいってほしい。

