「世界標準の技術で研究を促進する」

Category: 研究:大学・研究機関 | Update: 10/22 | Posted by: ishizawa

2004年9月、数十名の欧米の研究者を中心に、「ノックアウトマウス・プロジェクト」が提唱された。マウスの全遺伝子について、各遺伝子を破壊したノックアウト(KO)ES細胞株コレクションを作り、必要なときに研究者がいつでも無料で使えるようにするものだ。この世界的なプロジェクトを促進する技術が石田准教授らによって開発された。

アイディアを具現化する


 ゲノムの全塩基配列情報を得ることが容易になり、個々の遺伝子機能の効率的な解析が生命科学の重要な課題になってきた。「ES細胞レベルで遺伝子を破壊したコレクションがあれば、KOマウスを従来よりも容易に得られる」。欧米の研究者と同様のアイディアを石田准教授は温めていた。
 ES細胞の中では、たとえば未分化性を維持する遺伝子は発現しているが、免疫系の細胞や、神経系の細胞に分化したときのみ働く遺伝子は発現していない。すでにトラップベクターと呼ばれるDNA断片をゲノムの間に挿入させることで、発現している遺伝子をランダムに破壊する手法が確立されていた。1993年、京都大学からハーバード大学に研究の場を移した石田准教授は、残りの発現していない遺伝子を破壊する方法として開発された、ポリA・トラップ法の改良に取り組んだ。




世界中で誰も気づかなかったこと


帰国後、自ら開発したベクターを使いES細胞の中の遺伝子破壊を行った。ところが、1年半程の間に何度も実験を繰り返す内、上手くいかないと感じた。ベクターが挿入された遺伝子のmRNAを調べると、確かに破壊されてはいたのだが…。ゲノムDNAには、最終的にmRNAとして成熟し、タンパク質へと翻訳されるエクソン部分と、mRNAの成熟過程で除去されてしまうイン
トロン部分が交互に並んでいる。「気分転換に、エクソン―イントロン構造に照らし合わせてベクターの挿入部位を調べると、驚くべきことに、90%以上の細胞でベクターが最後のイントロンに入っていました」。ベクターが挿入されると、下流の遺伝子機能が破壊されるが、挿入部位が最後のイントロンの場合、破壊される領域が非常に小さくなってしまう。「これでは、ポリA・トラップ法により遺伝子を完全に破壊することはできない。大変困った事実に、2003年に気づきました。ただ漠然と『上手くいかない』と感じていた研究者は少なくありません。けれども、ゲノムレベルでベクターの挿入部位を調べた人は、世界中で誰もいませんでした」。石田准教授がこの現象に気づいてから、NMD(nonsense-mediated mRNAdecay)というm RNAの品質管理機構に原因があると確信するまで1ヵ月とかからなかった。そして、この機構を抑制しつつ遺伝子トラップを行うUPAトラップ法の開発に成功した。「原因を美しく説明できたときの感動」はこれまで味わったことのないものだった。



応用してこそ価値のある技術


「最初、有名な論文雑誌へ投稿したときに、世界の大御所から反論があって掲載に至らなかった。反駁はしましたが、技術開発をしたという論文ですから、ここで時間を浪費するよりも実際の研究に応用してこそ価値があると考えて別の雑誌に投稿しました」。だが、すぐに注目を集める。2005年2月に論文を発表したわずか2个月後、J.Rossant率いるカナダチームから講演依頼が来た。「セミナー終了後、カナダの国家プロジェクトに利用したいと言ってくれました。認めてもらえてうれしかった」。カナダのKOマウス・プロジェクトのウェブサイトには、奈良先端科学技術大学院大学の名が大きく掲載されている。現在は、日本でもナショナルバイオリソースプロジェクトの一部として動き始めた。石田准教授は、これから、自分が開発したゲノム科学の手法を駆使し、免疫分野の問題にアプローチしていきたいと考えている。医学部生の頃から、Tリンパ球が胸腺で自己と非自己を識別する能力を獲得するしくみに興味があるという石田准教授にとって、UPAトラップ法の開発は、学生の頃に出会った「時間やエネルギーを惜しみなく投入できる素晴らしい研究対象」を攻略するための通過点に過ぎない。




氏名
石田靖雅 准教授
プロフィール
奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 動物遺伝子機能学講座