「自分の興味を大切にして歩む」
佐々木裕之 教授 総合研究大学院大学/国立遺伝学研究所 人類研究部門
Category: 研究:大学・研究機関 | Update: 10/15 | Posted by: ishizawa
医学部組織学の授業中、顕微鏡を覗くと、赤血球、好中球、好塩基球など多くの血液細胞が見えた。また肝臓の切片には、肝細胞、胆管細胞、血管内皮細胞などがあった。同じ視野の中に見える形も大きさも異なる様々な細胞。同じ遺伝情報を持ちながら、そこで働いている遺伝子が違うという生化学の講義を佐々木教授は思い出していた。「自然は美しい、その美しさを見たり感じたり、それを表現したい」。当時から変わらぬこの想いで、佐々木教授は研究を続ける。
20年来の研究テーマとの出会い
「現在の研究テーマに出会ったのは、全くの偶然でした」。佐々木教授は、研究テーマとの出会いをこう振り返る。医師だった父親の影響で、九州大学医学部に進学するも、将来は基礎研究の道に進みたいと佐々木教授は考えていた。「医師も魅力的な仕事だと思いましたが、遺伝、細胞といったものに興味を持ったことがきっかけで、たくさんの人を救ったり、世の中を変えるような発見があるのは基礎研究だと思うようになっていたからです」。卒業後、1年間の内科臨床医を経験した後、九州大学の大学院に入学して研究を始めた。そこで与えられたテーマは佐々木教授が期待していたような基礎研究ではなかった。
「医師の資格もあるし、興味深いヒトの遺伝病の原因を解明してください、と言われて優性遺伝病の家族性アミロイドーシスの研究をすることになりました」。研究の過程で、単離した病因遺伝子を動物に入れることでモデル動物ができるのではないかと考えて試してみた。ところが病気のマウスはできず、その代わり、父由来と母由来の場合で導入した遺伝子の働きが異なるマウスができたことがわかった。目の前で起きている不思議な現象に心が躍った。「これを研究したい」。以来、佐々木教授の20年来の研究テーマになった。
自分の仕事を大切にする
「最初は先生からもらったテーマをやったっていいと思う。自分のやっていることを大事にしていれば、いつか自分のやりたいことが見えてきますよ。やらないことには始まらない」。1985年、佐々木教授が、家族性アミロイドーシスの原因遺伝子をマウスへ導入したことにより見つけた現象は、1980年代前半に提唱されはじめた「遺伝子が両親のどちらに由来しているのか識別されている」というゲノムインプリンティングとよばれるエピジェネティクス現象の概念に則ったものだった。エピジェネティクスとは、哺乳類の個体発生の過程で、親から受け継いだ塩基配列を維持しながら遺伝子発現を変化させたり、分化した細胞がその細胞に特有な遺伝子発現パターンを維持したりすることができる調節機構のことをいう。「とても良いタイミングのときに見つけることができました」。この頃から、発生学、遺伝学をはじめ、いろいろな分野を取り入れたエピジェネティクスの研究が急速に進展し始めた。ゲノム解読が完了した今、ますます重要なテーマとなり、世界中で研究が進められている。世界中の研究者の成果に刺激を受ける一方、競争は激しい。
美しさを表現する芸術家
佐々木教授は、新たな発見のたびに科学者としての喜びを感じると同時に、「見たものを表現したい」という思いがこみ上げてくるという。「研究をして論文を書くことは、芸術作品、例えば絵や小説をひとつ完成させるような感覚です」。未だ、満足できる論文に仕上がったことはないという。佐々木教授にとって、これまで研究をやり続けてきた理由のひとつがここにある。「感動やロマンを感じさせるようなストーリーを、一生かかっても良いから作り上げたい」。多くの人を魅了する優れた文学作品のような論文を目指し、佐々木教授は研究を続ける。
国立遺伝学研究所 公開講演会 2008
- 日時
- 2008年11月8日(土) 開場 12:00 / 開演 12:30
- 講演内容
- 生きている動物の体内で細胞の形作りを観察する / 榎本和生 准教授
- 植物ゲノムの多様性 / 倉田のり 教授
- ゲノムの高度活用戦略 / 佐々木裕之 教授
- 場所
- 秋葉原コンベンションホール(JR秋葉原駅 電気街口徒歩5分)
- 参加費
- 無料
- お申し込み
- 国立遺伝学研究所http://www.nig.ac.jp
- お問い合わせ
- TEL: 055-981-6707(代表) / 055-981-5873(知的財産室)
- 氏名
- プロフィール




